仙台高等裁判所 昭和32年(う)333号 判決
本件記録並びに被告人に対する昭和二九年(わ)第七〇号収賄被告事件記録によれば、検察官が昭和二九年六月二五日被告人に対する収賄被疑事実につき盛岡地方裁判所一関支部に公訴を提起したが、公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が被告人に送達されなかつたため、同支部は同年一一月五日公訴棄却の決定をしたこと、検察官が右決定の確定を待たないで即時抗告の提起期間内の翌六日同一被疑事実につき同支部に本件の公訴を提起したこと、右決定は後の公訴についての第一回公判期日前に即時抗告がなくしてその期間が経過したことにより確定するに至つたことが認められる。昭和二八年法律第一七二号刑事訴訟法の一部を改正する法律により同法三三九条一項一号が新設された後においては、公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が被告人に送達されなかつた場合には、公訴の提起は右規定による公訴棄却の決定の確定により始めてさかのぼつてその効力を失うものと解さなければならないから、第一の公訴を棄却する決定が確定する前にされた第二の公訴の提起がいわゆる二重起訴にあたることは、これを否定することができない。しかし、公訴の提起があつた事件について更に同一裁判所に公訴が提起された場合に、後の公訴については実体的な審理にはいらないで形式的裁判である公訴棄却の判決によつて事件を終結せしむべきこととしたのは、憲法三九条後段の趣旨に応え、被告人をいわゆる二重の危険に曝すことを防止するためであることは、いうまでもない。従つて、第二の公訴が第一の公訴を棄却する決定が確定する前に提起されたものであつても、該決定が第二の公訴に対する判決前に確定し、第一の公訴の提起がさかのぼつてその効力を失うに至つたときは、被告人を二重の危険に曝らすことはありえないわけであるから、かような場合には、第二の公訴の提起当時それに存した二重起訴の瑕疵は、訴訟状態の変更により治癒されたものと解するのを相当とする。かく解することは訴訟経済の見地からもまた是認されるものと考える。されば、原判決が本件につき公訴棄却の判決をしないで実体的な審判をしたのは、結局正当である。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 斎藤勝雄 裁判官 有路不二男)